2025年11月11日
地域共生
介護等体験の本質:教職課程の学生たちが得る真の学び
はじめに:予想外の反響から始まった気づき
社会福祉法人藤花会が運営する「せとうちの郷」は、今年度(令和7年度)から初めて、教職課程の学生を対象とした「介護等体験」の受け入れを開始しました。
立地の利便性を考えてのことでした。西大寺駅から徒歩10分という好立地なら、学生さんにとって来やすいのではないか。最初の想定は「年に1人か2人程度かな」というものでした。
しかし、蓋を開けてみると、前期だけで11名の学生が来訪。予想をはるかに上回る申し込みがありました。
受け入れ側の職員一同、驚きました。でも、その驚きがきっかけでした。
「予想より多い。でも、ならば、この11名を受け入れることの中に、私たちの学びがあるのではないか。これは、将来の先生たちに、私たちの仕事をアピールできるチャンスなのではないか」
そう考え直し、全員を受け入れることに決めました。
その結果、得られたのが、以下のアンケート回答です。そして、予想外だったのは、学生たちの「心の動き」のリアリティと深さでした。
学生たちが体験を通じて得たもの
職員の雰囲気が、すべての入口
これは最も基本的ですが、最も大切な点です。学生たちが最初に感じるのは、職場の「温度感」です。専門知識よりも、まず職員同士の関係性、利用者さんへの向き合い方が、目に映ります。
良い学校づくりは、職員の雰囲気から始まる——教職を目指す学生たちは、この短い体験の中で、その本質を直感的に学んでいます。
来る前と来た後:イメージの変化
来訪前、学生たちが持つ介護職のイメージは、ネガティブな要素を含んでいました。
「精神的にしんどそう」「人手が足りなさそう」「体力的にきつそう」。これらは、社会全体が持つ介護職への認識です。テレビニュースで報道されるのは、人手不足や待遇問題。学生たちも、その「常識」を持って施設に来ます。
しかし、全員が「より良いイメージになった」と答えた。
つまり、現場で実際に職員たちの姿を見ることで、ネガティブなイメージが更新されたのです。重要なのは、ネガティブな側面は存在する(きつい、大変という認識は残る)という点です。しかし同時に、そこに働く人たちの充実感ややりがいを感じた。社会的イメージと現実のギャップに気づいた。
これは、教職を目指す学生たちにとって、極めて大きな学びです。何か一つの「正解」を学ぶのではなく、複雑な現実の中で、その仕事の本質を見る眼差しが育まれるのです。
人との関わりの中で起こる変化
アンケートの自由記述から、学生たちが何に心を揺さぶられたのかが伝わります。
「ゲームやクロスワードをしたときに『あなたがいてくれてとても楽しい時間を過ごせた』と言ってもらった」
「最初はやり取りが少なかった利用者さんが、2日目から4日目にかけて、話してくれたり笑顔になってくれたりした」
「帰り際に寂しいと言ってくれたこと。一つ一つに対して感謝の言葉をかけてくれた」
これらは「介護技術」ではありません。人と人が関わるプロセスの中で、相手の変化を感じ、その喜びを味わうという経験です。
教室でも、子どもたちとの関わりの中で、こういう瞬間が何度もやってきます。「この子が最初は引っ込み思案だったのに、今日は発言してくれた」「帰り際に『先生、また明日ね』と言ってくれた」。そういう積み重ねが、教育の実感となります。
学生たちは、この体験を通じて、その関わりのプロセスを先取りして学んでいるのです。
将来、教職で何を活かすか
体験後の調査で「将来先生になったとき、この体験をどこに活かせそうか」と聞きました。
複数回答で挙がった項目
- 子どもとの関わりに活かせるほぼ全員
- 人の支え方っていろいろあるって思えた ほぼ全員
- 地域や世代をこえた関わりも大事だなって思った
- 保護者とのやりとりに役立ちそう
教職課程の学生たちが、自発的に「教育現場への応用」を考えています。
学生たちが見つけた「介護の本質」
最後の問い「子どもに『介護ってね…○○なんだよ』って伝えるとしたら、○○に入る言葉は?」への回答が、最も核心的です。
学生たちが体験を通じて辿り着いた「介護の本質」:
- その方のうまくできない部分をサポートすることで、利用者の方が安心して生活ができるようにする仕事
- 思いやりを持って接することが大事な仕事
- その人らしく過ごせる居場所を作る仕事
- 信頼関係が大切
- 人生を支える仕事
- その人らしさを大切に寄り添う仕事
ここに、職業訓練や技術習得ではない、人間関係の本質に関わる学びが集約されています。これらはすべて、教育にも通じることばかりです。
受け入れ側が学んだこと
「何をどう教えるか」という問いは、実は不要だった
受け入れ側の職員からよく聞く声が、「学生たちに何を学ばせればいいのか」という疑問です。介護技術?認知症の対応方法?
でも、この11名の学生たちの回答を見ると、その答えは明らかです。
私たちの「日常」が、最高の教材だったのです。
ご利用者さんとの関わり方、職員同士の連携、困難な場面での判断、喜びの瞬間。そのすべてが、次の世代の教育者の眼差しに映っています。
完璧に教える必要はありません。ありのままの現場を見せる。そこから、学生たちは自分たちで考え、学び、気づきます。
学生たちの「見方」が、私たちの仕事を照らし出す
「コミュニケーションを取ったり、一緒に何かをしたりすることが印象的だった」
「元々先生をしていた方とお話できて、応援の言葉をかけてもらった」
学生たちは、私たちが「当たり前」だと思っていることに、深い意味を見出しています。
私たちは日々、利用者さんとの関わりを積み重ねています。でも、その中で「本当に大切なことは何か」を問い直す機会は、実は少ないのではないでしょうか。
学生たちの「気づき」は、受け入れ側にとって、自分たちの仕事の価値を再確認するプロセスなのです。「こんなふうに見てくれているんだ」「私たちの姿が、次の世代に何かを伝えているんだ」。
その実感が、職員たちのモチベーション向上にもつながります。
介護等体験の受け入れは、双方向の学びの場
介護等体験が、教職課程の必修だという事実から逆算して考えると、受け入れ施設の役割は「講師」ではなく「実践の場の提供者」です。
学生たちが、自分たちの目で見て、耳で聞いて、心で感じる中で、初めて意味が生まれます。
そして、その過程で、私たちにも気づきがあります。
「本当に大切なことは何か」を、学生たちとの関わりの中で、改めて問い直す。それが、受け入れ側にとっての最大の学びなのです。
おわりに:これからの可能性

前期での11名の受け入けを通じて、私たちが得たのは「この体験は、本当に意味がある」という確信でした。
学生たちの一つ一つの言葉から感じる真摯さ、職員たちの「自分たちの仕事、ちゃんと伝わっているんだ」という実感。それが循環していく感覚がありました。
令和7年度後期も、8名の新たな学生たちが来訪します。
その関わりの中で、また新しい気づきが生まれるでしょう。介護という仕事の本質を伝え、同時に、自分たちの仕事の価値を問い直す。その双方向の学びの場を、これからも大切にしていきたいと考えています。

